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馬事公苑にて

 もう、5、6年前だろうか。当時、設けていたホームページに、東京都目黒区八雲の宮前幼稚園について誌したことがある。すると、たまたまそれをご覧になられた、宮前幼稚園の卒業生で、園の先生もなさっていたという方から、園長先生がお亡くなりになった後、園は閉鎖された旨、連絡を頂いた。
 インターネットの奇跡に驚嘆し、ご親切に感謝したものである。
  
 私も卒園生である宮前幼稚園の園長先生は、当時、お幾つでいらしたのか、今となっては不明だが、鹿児島出身の女性で、同郷の私たち家族に特に懇意にして下さったと亡母に聞いていた。それだけに、一入残念な知らせであった。

 その宮前幼稚園児だった頃の、ある爽やかな季節に、世田谷区上用賀の馬事公苑へ遠足へ出かけたことは、夢の中の出来事のようだったが、色が薄れた写真が残っているので確かである。

 爾後の東京生活時代、毎年であったり、5年振りだったり、思い出したように足を運ぶ馬事公苑に、先の東京出張の折も出向いてみた。公苑を囲む桜の巨木達は、咲き誇る準備万端であったが、私が見たかったのは馬である。

 若草のように揃った長い睫毛の奥に、黒砂糖飴のような丸い瞳が見え隠れするのは、乗馬の訓練中のサラブレッドだ。
 調教が終わり厩舎で休む白馬は、夕暮れを待つ農夫のように穏やかで、幼稚園児だった頃に見たのと同じ表情である。

 東京の春の日、私は馬を眺め続けた。いつの間にか影が長くなっていた。

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by site-tate-tale | 2008-03-30 22:31

市民の足

 近年、環境への優しさを見直されているフランスでの路面電車(トラム)の軌道延伸が、私のパリ滞在中に行われていたことを記したのは、2006年4月17日のことである。

 2006年の6月11日には、イスタンブールのトラムの写真を掲載しているが、地元の人間には単なる交通機関でも、観光客には旅情喚起の重要な要素となるのが、街路を行く交通機関だ。

 鹿児島市交通局の前身である鹿児島電気軌道株式会社が、我が街鹿児島に路面電車を走らせたのは、大正元年(1912年)だというから、その歴史は100年になろうとしている。
 開業当時建造された、無骨にして堅牢な石造りの武之橋変電所が残るのは、鹿児島市を東西に二分する甲突川の畔に近い鹿児島市交通局本局である。他にも築40年以上の懐かしい建築物が、野球場2面ほどの敷地に並ぶここを、春さるの昨日、仲間と訪れた。

 Site Tate Taleには、鹿児島市の中心部を縦断する路面電車がしばしば登場するが、それらは鹿児島市交通局本局の操車場から出発し、帰巣する鳥のようにここで眠るのである。

 我が国は土建屋国家である。だから、他の自治体同様、国庫などの助成金を当てに、建物を壊しては造ることで財政を維持してきた。
 結果、観光都市と謳いながら景観への配慮のない街が、未来へ引き継がれようとしている。
 
 木床に塗布された油の匂いが、古い小学校の教室を彷彿させる事務棟。私のような演劇人には映画の撮影所を思い起こさせる雑然とした作業場。新旧居並ぶ車両が、童心を蘇らせる中、軌道を擦過する車輪の音が青空にこだまする。

 多額の赤字を生む過疎地へのバス路線から撤退するわけにもいかず、経営は前途多難であろうが、視点を異にすれば、観光隆興へのヒントが満載の鹿児島市交通局であった。

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by site-tate-tale | 2008-03-30 13:37

春容

「ああ何も変わっていない」
春先らしく雨の多い弥生三月、3年振りに東京に降り立ったテイトは、そう目を細めた。

東京はテイトの生涯の最も多くの時を奪った街である。駅の雑踏に紛れるくらい何の苦もない。
向かうは、懐かしい街。

かつてと同じように商店街を抜けると、春休みの小学校の老桜が見えてくる。

花はまだかと見上げたかと思うと、気ままな散歩の犬の如く路傍に視線を落とす。
名もなき野草が、アスファルトの隙間から花を覗かせ、それは黙々と働く市井の人のようであった。

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by site-tate-tale | 2008-03-29 08:11

花幻

風がスペインから吹けば暖かく、イギリスから吹けば寒くなるのが、パリの気候だった。

この一両日、全国的に暖かいようである。

もう少しゆっくり暮らせると考えていた鹿児島生活だが、意外と慌ただしく時が経過している。
春花を愛でる暇もない。

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by site-tate-tale | 2008-03-13 17:31

アーティストの在り方

まず、このニュースをご覧いただきたい。

日本のマスコミは、ジャーナリズムとは別物である。
そう確信したのは、2005年から2006年にかけてのパリ滞在時だ。
外交もそうだが、日本のマスコミの、中国に対しての遠慮の仕方は尋常ではない。
宗教団体への弾圧や、政治犯の処刑等の中国政府の非人道的行為を、日本では、人権、人権と喧しいマスコミほど報じないのは、どういう理由だろう。

フランスではテレビのニュースや新聞で、普通に報道されているというのに。
ジャーナリズム不在の国日本で、私はビョークの行動を支持する。


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by site-tate-tale | 2008-03-11 15:57

赤い花、白い花

寒さに追われるかの如く歩いてきた、小学校に隣接するバス停までの道が、今日はストップモーションで見えるのは、春のせいである。

校庭でドッヂボールに興ずる子供たちの歓声は、春を喜ぶかのよう。
客待ちのタクシーの運転手は居眠りで、帽子が阿弥陀である。
自動販売機の陰から、往来を左見右見しながら春の匂いを嗅ぐ三毛猫も、バレエ少女のように足取り軽やかだ。

庭に満開のマグノリアのお宅がある。
我が家のは、まだ蕾のはずだと、家路を急ぎ庭を覗くと、一輪だけ、花になっていて、白く小さく赤子の手のようだ。

目を転じると、椿が一輪、落ちている。
その赤々とした様は、日陰の地面に灯る炎の如きであった。


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by site-tate-tale | 2008-03-10 19:10

モレスキンの手帳

2008-03-09

暖かいメトロに乗り込みホッとする。
もし、パリで宿無しになったら、メトロで過ごすことになるのだろうかなどと、暗澹たる想像に浸るのは、長く厳しいパリの寒さのせいだろう。

何かの記念日なのか、平日だが学校はお休みのようで、向かい合う席にぬいぐるみのように座る少女が本を読んでいる。
『Fire wing』
表紙に書いてある英語を、小さく声に出してみると、マドモアゼルはにこっと笑みを浮かべた。

パレ・ロワイヤル・ミュゼ・ド・ルーヴル駅で客は入れ替わる。無表情なのはパリジャン、高揚しているのはルーヴル帰りの観光客だ。

次のオテル・ド・ヴィル駅の手前で、メトロは突然停止した。車内も一時真っ暗になったが、しばらくすると、薄暮に昇る星のように、予備灯がゆっくりと点く。よくあることだ。
そして、暗がりに目が慣れた頃、車内の照明は再点灯した。

手帳の記述はここまでである。日付は2006年の3月。おそらく、ピカソ美術館へ出かけた時のメモだ。

結局、オテル・ド・ヴィル駅でメトロは動かなくなり、そこからシナゴーグのあるマレ地区を抜け、黒い帽子の人々を追い越しピカソ美術館へ向かった。
植え込みの春の花々が、空の青さに眩しい、穏やかな日だった。

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by site-tate-tale | 2008-03-09 09:19

ラヴェルを聴きながら

いつの間にか、生け垣の山茶花も終わろうとしている。
代わりに猫の足先のような、柔らかな毛に包まれた莟をつけるのは、庭のマグノリアだ。

さて、先に誌した通り、5年の記録を抱えるPower Bookが損壊した。
で、困るのは、データの損失である。
内容は概ね記憶しているいくつかの書きかけの原稿の、しかし、そのために吟味した言葉が蘇生しない。
初めから書き直せということだろう。

そこで、日がな原稿を書いている。
新しい相棒のiMacでラヴェルのピアノ曲を聞きながら。
日はすっかり暮れたが、筆は進まない。
ラヴェルの音楽が、パリを追憶させるからだ。

アパルトマンのヴォージュラ通りに面した、つまり西側の窓から、ゴッホの描いた夜の絵を観るかの如く色を変える夕空を眺めながら聴いたのは、フランスのクラシック専門のラジオ局、『Radio Classique』である。


そんな夕暮れに、この『Radio Classique』から流れるのは、『Pavane pour une infante defunte』や『Menuet antique』など、決まってラヴェルだった。


前回の原稿遅延では流行作家気取りと揶揄されたが、寝食を忘れて取り組んでおりますので、どうかご慈悲を。


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by site-tate-tale | 2008-03-06 23:01

Site Tate Taleをご覧下さい。

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by site-tate-tale | 2008-03-06 12:40


♪サイト・テイト


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竪山 博之
(たてやま ひろゆき)
演 出 家

舞台演出・演技指導・朗読講座の他、芸術やフランス文化に関する講演や執筆を生業としております。

お気軽にお問い合わせ下さい。
hiroyuki_tateyama
@me.com

尚、Site Tateは、テイトなる男を主人公とする、虚実織り交ぜた物語です。

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