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雨の朝

夢に雨音が混じったことが朧げである。
首に走る激痛で目覚めた。
寝違えたらしく、右に捻ることが出来ない。
イテテテと独り言ちながら、洗面に立ち、パジャマを着替え、お茶を啜る。

喉元過ぎればとわかっているが、首の筋一つで、かなりの動きが制限されるものだと、普段の健康に感謝する。

イテテテと呻きながら靴を履き、傘を選ぶ。
お返ししなければならない傘が、傘立てに残っている。
雨が降らなければ、傘のことなど忘れている。

昼には家に戻り、久し振りのブログである。
雨垂れの庭にネタを探そうと、窓外に目をやると再びの疼痛だ。
イテテと呟く視線の先には、ひとひらの紅葉である。

首の痛みも、秋雨も穏やかになってきた。

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by site-tate-tale | 2008-10-23 11:41

失われた時を求めて

野暮用の帰りに立ち寄ったのは書店である。

阿川弘之、井上靖、宇野千代、遠藤周作、大江健三郎・・・
文庫本の棚を見渡していると、携帯電話に訃報が飛び込む。
「H君のお母様が亡くなりました。」

目的の本は『プルースト大全集』全五巻で、これをカードで支払い、喪服に着替えるため家へ戻る。
水屋の抽き出しから、数珠と袱紗を取り出し、薄墨の筆ペンを内ポケットに押し込み、香典袋を用意するため、まずはコンビニへ急ぐ。
10月とはいえ、喪服での鹿児島はまだまだ暑い。

バスを乗り継ぐ間に、日は落ちた。
駅で友人のC君と待ち合わせ、斎場へはタクシーで向かったが、C君が黒いネクタイを締め直しているその車中で、私は香典袋に筆ペンを走らせる。

秋の虫が密やかな川のほとりの斎場は、蛍光灯が電気屋の店頭のように煌煌と明るい。
読経が聞こえる中、今日は名前を何度も書く日だと思いながら受付を済ませる。
そして、会場へ案内されると、聞こえていたのは読経ではなく祭詞であった。
久し振りの神式の葬儀に、ポケットにしまったのは数珠である。
参列者の流れに紛れ、玉串を捧げる。忍び手(音を立てない柏手)のはずが、乾いた音が立った。

振る舞われたビールで、駆け付けた同級生たちとしみじみしていると、故人の長男、つまりH君が挨拶に回ってきた。
くも膜下出血での急死だったので、まだ実感がないと言うが、その通りなのだろう。悲しみより驚きの勝る表情で、長い一日を振り返っている。
喪服の出番は久し振りなので、デザインの古さが気になると笑い、こういう時らしく気丈である。

小一時間で辞去すると、C君と我が家に近い騎射場(きしゃば)と呼ばれる飲食店街へタクシーを走らせ、馴染みの『二代目千楽』で、一杯やる。

秋太郎(バショウカジキの別称・鹿児島県が水揚げ全国一)の刺身や、とろとろの黒豚、焼き茄子など、旨い肴で野球談義などをしている間に11時だ。
ふらふらと店を出て、C君のタクシーを見送る。

家に戻ると、投げ置かれた書店の袋から、『プルースト大全集』を取り出す。背表紙には、それぞれ、第一巻、第二巻、第二巻、第四巻、第五巻とある。
酔った目をこすり、もう一度、よく見る。一、二、二・・・。
やはり、第二巻が二冊で、第三巻がない。

よくあることだと、風呂を浴び、ごそごそと布団に潜り込む。
眠りの谷へは、すぐに転げ落ちた。

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by site-tate-tale | 2008-10-13 13:34

鵯(ひよどり)

忙しいとは言いたくないが、まあ、何かと野暮用の多い昨今、南国鹿児島も朝晩は秋めいてきた。
と言っても、気温が20℃を下回ることはなく、日中はTシャツ1枚でも快適だ。

もう、2年も前のことで、その追憶を辿ることも少なくなったパリのこの季節、起床するとコートを羽織り、冷たい空気を鼻腔に感じながら近所のパン屋へ急いだものだ。その道すがら、隣のワンちゃんの散歩とすれ違う。そんな光景が、不図、蘇る。

汗はすぐに乾いてしまった。熱風の舞うホーチミンの11月の夕暮れ、バイクと自転車の波に驚きながら、太極拳に勤しむ若者を縫って市場へ向かったのも記憶に新しい。
夕陽が赤々と揺らいでいた。

東京はどうだったろう?
25年も住んだ東京の記憶が薄れていることに気がついた。
覚えていなくても良いことが多かったのかもしれない。
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by site-tate-tale | 2008-10-09 08:59

新年明けましておめでとうございます

早いうちに言っておきます。
来年の年賀状に、『新年明けましておめでとうございます』と、書かないよう、ご注意下さい。
明けた年のことを新年と言うのです。
だから、明けたばかりの年を、更に明けさせるのはおかしいのです。

*年賀状の書き方参照

そう言うお前は、年賀状出せよって?
面目無い。

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by site-tate-tale | 2008-10-05 12:59

特攻爺さん

先の颱風の後、2、3日の晴天があったが、秋霖である。この週末、楽しみにしていた母校の野球の県大会も、平日にもつれ込んでは応援に行けそうにない。

入院中の知己を見舞ったのは、颱風一過で朝から爽やかな晴天だった神無月朔日のこと。鹿児島湾には雄大な桜島が青々としていた。

知己は北向きの4人部屋を仮の住みかとし、早く抜け出さんとしているのだが、同じく、激励したくなるのは、髪が抜けているところから推すに、癌の化学療法を受けているらしい20代の若者である。知己と同じく窓側の寝台で、いつも退屈そうに、目だけをぎょろぎょろさせて寝転がっている。

「おいな特攻の生き残いじゃっで、いつ、け死んでんよかたっどんなあ」
(俺は特攻の生き残りだから、いつ、死んでもいいんだけどなあ)
と、大きな声は廊下側の老人だ。
その老人は、私が病室を訪ねる度に、看護婦さんに身体を拭いてもらっている最中で、
「けな、わけおなごんこに、ふいてもらえっせ、美肌にみがっがかかっが」
(こんな、若い女の子に、拭いてもらえて、美肌に磨きがかかるよ)
と、カーテンの向こうで冗談混じりの陶酔の声を上げ、その後、「おいな特攻の生き残い…」云々と続けるのが常套だ。

知己を見舞う際には、この特攻隊だった老人にも、必ず「こんにちは」と、声をかけるのだが、じろっと睨まれ、無視されるのが常である。
おそらく、彼にとって私は、今時の気骨のない人種の最たるもので、嫌悪感を禁じ得ないのであろう。なんせ、女のように髪など伸ばし、シャツにはフリルが付いている。

それでも、自らを余生の人と定義付け、その時間のほとんどをおまけとして過ごしてきた彼の生の拠り所に敬意を払わずにいられぬ私は、挨拶を欠かすことはない。

だいたい、髪の長い男など信用ならぬものである。

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by site-tate-tale | 2008-10-04 09:15

昼食にて…2

ところで、以前、ブログに誌した通り、私は早食いである。

早食いは健康に良くないし、料理はよく噛んでいただいた方がおいしいに極まっている。
だから、最近は特に気をつけ、よく咀嚼するようにしている。

そうやって、歯ごたえと甘みを楽しんだのは、もやしである。
噛む前に解けてしまうのは、焼豚の脂だ。

12時15分になると、もうテーブル席は2回転目である。それでも後から後から近所のサラリーマン風の客が訪れ、店主は
「お待たせして、すみません」
「相席で、すみません」
と、何度も頭を下げながら麺の湯切りに勤しんでいる。

待っている客には悪いが、よく咀嚼し、味わってラーメンを食べ終えた。
咳を一つして、会計に立ち上がると、左隣の週刊現代の男は、未だづるづるづるっと音を立てて麺を啜っており、丼には半分も麺が残っている。

何だ、旨そうな音を立ててるくせに、そんなにゆっくり食べていてはスープは冷めるし、麺も伸びるじゃないか。他の客も待っているぞ、さっさと食べやがれ。
と、心の悪魔が揶揄する。

駆けっこも早かったし、早足のようだし、食事も早く、早寝早起きの私は、のろい人に少し意地悪のようだ。
いっひっひ。

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by site-tate-tale | 2008-10-02 07:29

昼食にて…1

鹿児島はおいしいものの宝庫である故、昼食をどこで摂ろうかと、街中を右顧左眄してうろつくのは、何も昨日に限ったことではない。

颱風一過、久し振りの晴天で人々の顔に活気漲る正午、そう言えば銀行の裏手にラーメン屋があったと暖簾をくぐる。
私は一つだけ空いていたカウンターに滑り込んだが、後続の客は入り口で待たされた。店は既に混んでいる。

比較的新しい店のようだ。
カウンター内に広くはない厨房があり、店主らしき40絡みの男を中心に、その妻らしき人物、その両親らしき年嵩の男女、そしてアルバイトだろう若い女性などの計7人が犇めきながら立ち働いている。

昨夜の大阪の火事のニュースを深刻ぶって話すテレビの音も、店の賑わいで聞こえたり聞こえなかったりである。

「はい、お待ち!」
10分ほど待ったところで、左隣で週刊現代を読んでいたサラリーマン風の男のラーメンと同時に、私のも出来上がり、白地に青い模様のある丼が左右に並んだ。

豚骨と鶏で煮出しただろう半透明のスープに浮いているのは焦し葱。つるつるの麺は黄白色で、白身の甘さが鹿児島らしい焼豚に、もやし、浅葱のシンプルな鹿児島ラーメンで、鹿児島の老舗ラーメンの経営者たちが高齢化する中、働き盛りの男が作った丁寧で勢いのある味である。

ネクタイをしているから、やはりこの界隈のサラリーマンだろう。右隣の男は丼に顔を付け、いわゆる犬食いでスープをずずずっと飲んでいる。

東京のラーメン屋のように、カウンターに客を詰め込んでいるので、時折、肘が当たるのは左の週刊現代の男だ。
この男も豪快に音を立て、麺を啜っている。
ラーメンのCMには、こういう食べ方が相応しいと内心思うが、ミートソースのスパゲティやカレーうどんの汁を、フリルのシャツに飛ばさぬよういただく奥義を極める私には、逆に難しい芸当だ。

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by site-tate-tale | 2008-10-01 18:07

Jangmi

颱風15号(アジア名Jangmi)は、午前8時現在、鹿児島県本土南部に位置する、世界遺産として有名な屋久島の南海上を移動中らしい。
らしいというのは、鹿児島市では青空が見え始めているからである。
庭木の芭蕉や紅葉が、爽やかな風に時折揺らいでいるが、白木蓮や躑躅は、書き割りのように微動だにしない。

暫く、名も知らぬ秋の虫が、通夜の喪主のようにひっそり鳴いていたが、日が高くなるに連れ、それも聞こえなくなった。

都会の事件が喧しいテレビを消せば、いつもの静寂の朝である。

鳶が輪を描いている。

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by site-tate-tale | 2008-10-01 08:57


♪サイト・テイト


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竪山 博之
(たてやま ひろゆき)
演 出 家

舞台演出・演技指導・朗読講座の他、芸術やフランス文化に関する講演や執筆を生業としております。

お気軽にお問い合わせ下さい。
hiroyuki_tateyama
@me.com

尚、Site Tateは、テイトなる男を主人公とする、虚実織り交ぜた物語です。

(c) Hiroyuki Tateyama
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